乳がんは遺伝する?遺伝性乳がんの特徴や治療法についても解説します。

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乳がんの発生に遺伝子が影響する場合があるということを知っていますか?

乳がんは日本人に多いがんの一つで、遺伝によって発症リスクが高まる場合があります。 家族に患者がいても全員が発症するわけではなく、大切なのは「がんに関わる遺伝子変異を受け継いでいるかどうか」です。 変異を持つと乳がんになりやすくなりますが、検査や処置によって乳がん発生リスクや死亡率を下げることが可能です。 この記事では、乳がんと遺伝の関係、遺伝性乳がんの特徴、そして予防や治療の方法を紹介します。

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1.乳がんの基礎知識

乳房は乳腺と脂肪組織で構成され、大胸筋に支えられています。乳腺は乳管と小葉からなり、乳頭から放射状に広がっています。

乳がんはこの乳腺の組織に発生し、乳管や小葉の上皮から増殖して「しこり」として見つかることが多いです。

症状には、乳頭・乳輪のただれや湿疹、分泌物なども含まれます。発生の一因として女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)が関係し、40歳以上の方、肥満の方、家族に乳がんにかかった人がいる方などはその分泌量が多くなりやすく、発症リスクが高いとされています。

2.日本における乳がんの近況

現代では2人に1人が生涯でがんを発症するといわれています。

2018年の全国がん登録によると、新たにがんと診断されたのは約98万人、そのうち女性は約42万人でした。中でも乳がんは93,858人(22.2%)と最も多く、日本人女性の9人に1人が乳がんと診断されています。

乳がんによる死亡は年間約15,000人。特に30~64歳女性では、がん死亡原因の第1位です。

しかし、乳がんは早期発見で完治が可能ながんとして知られています。

乳がんの5年生存率(2018年データ)

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3.乳がんには遺伝子が関係する!遺伝性乳がんとは

3-1.乳がんになりやすくなる原因とは 女性ホルモンと遺伝が重要

乳がんのリスク要因には「女性ホルモン」と「遺伝」があります。

女性ホルモンの一種であるエストロゲンが長く分泌されるほど発症リスクが上がり、閉経年齢が高い、出産経験がない、飲酒・喫煙、閉経後の肥満などが影響します。

多くのがんは生活習慣による遺伝子変化が原因で、次世代には遺伝しませんが、乳がんの約5〜10%は遺伝性です。

遺伝性乳がんは少数ですが、どのような場合に可能性があるかを知ることは、自分や家族の健康管理に役立ちます。

3-2.乳がんに関する遺伝子 BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子

遺伝子には体を正常に保つ情報が含まれており、人によってわずかに異なる部分を「バリアント」と呼びます。

乳がんのなりやすさはこの差によって決まるとされ、特に「BRCA1」「BRCA2」遺伝子が関係します。これらはDNA損傷を修復する働きを持ちますが、機能しないと修復ができず、他の遺伝子変化が起きやすくなり、がんが発生しやすくなります。

このような変化を「病的バリアント」といい、BRCA1やBRCA2に病的バリアントがある場合、乳がんリスクが高まります。

3-3.乳がんの遺伝子は必ず引き継がれるわけではない

人は遺伝子を2つ1組で持ち、母親と父親から1つずつ受け継ぎます。

両親のどちらかが病的バリアントを持つ場合、自身が受け継ぐ確率は2分の1です。

近い血縁者に乳がん患者がいるほど発症リスクは高まり、両親・子供・姉妹に患者がいる女性は2倍、祖母・孫・叔母にいる場合は1.5倍リスクが上がるとされています。

そのため家族に乳がん患者がいる場合は注意が必要です。

3-4.遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)って聞いたことある?

BRCA1やBRCA2に病的バリアントがあると、乳がんだけでなく卵巣がんのリスクも高まり、この体質を「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と呼びます。

日本では乳がん患者の約4.2%、卵巣がん患者の約11.8%に認められ、200〜500人に1人がHBOCに該当するとされます。 ただし必ず発症するわけではなく、一生がんにならない人もいます。

HBOC女性の乳がんリスクは26〜84%、卵巣がんはBRCA1で35〜46%、BRCA2で13〜23%とされています。

リスクを理解し、自分に合った検診や治療方針を考えることが大切です。

【参考文献】 遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を ご理解いただくために https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/breast_surgery/hboc/hboc_JOHBOC_2022_2.pdf

3-5.乳がんのHer2陽性って何?乳がんにおけるサブタイプ分類とは

乳がんの15〜30%は Her2陽性 で、これは細胞表面にあるHer2タンパクが過剰に作られ、細胞が不必要に増殖する状態を指します。

診断には、タンパク量を調べるIHC法や遺伝子増幅を調べるISH法が用いられます。Her2陽性では化学療法と抗HER2療法の併用が有効であるため、陽性・陰性の判別は重要です。

乳がん治療には再発予防、がん縮小、延命・症状緩和などを目的に薬物療法が行われます。 その選択には病期や再発リスクに加え、サブタイプ分類が特に重要です。サブタイプは「ルミナルA型」「ルミナルB型」「HER2型」「トリプルネガティブ型」に分けられ、治療方針を決める基準となります。

4.遺伝性のあるがんは乳がん以外にも存在するのか?遺伝とがんの関係

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多くのがんは後天的な遺伝子変化が原因で遺伝しませんが、HBOCのような遺伝性がんでは乳がん・卵巣がんに加え、前立腺がんや膵がんのリスクも上昇します。前立腺がんは一般10.8%に対し、BRCA1変異で最大29%、BRCA2変異で最大60%。膵がんは一般2.6%に対し、BRCA2変異で2〜7%。男性でもBRCA変異があると乳がんリスクが約6%となります。

このように乳がん以外にも注意が必要で、大腸がんのAPC遺伝子や網膜芽細胞腫のRB遺伝子なども知られています。がん体質かどうかは遺伝子検査で確認可能です。

5.乳がんの遺伝子検査を受けるべきか?

遺伝子検査では、HBOCの原因となるBRCA1・BRCA2の異常有無を調べられ、通常の採血で行うため身体的負担は少ないです。ただし、すべての医療機関で受けられるわけではなく、大学病院やがん専門病院など限られた施設で実施され、事前に遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。

乳がんを発症していない方のBRCA検査は保険適用外で、自費30万円前後が多いです。 一方で、以下の条件に1つでも当てはまればBRCA1/2遺伝子検査が保険適用となります。

  • がんの治療において、分子標的薬オラパリブの適応かどうかを判断する場合
  • 45歳以下で乳がんと診断された
  • 60歳以下でトリプルネガティブ乳がんと診断された
  • 両側の乳がんと診断された
  • 片方の乳房に複数の乳がん(原発性)を診断された
  • 男性で乳がんと診断された
  • 卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
  • ご自身が乳がんと診断され、血縁者に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる

自費では費用負担が大きいものの、リスクを把握することで検診間隔を短くしたり、予防的治療を選択できるなどの利点があります。

5.遺伝性乳がんやHBOCと診断されたらどうする?治療法や保険適用について解説

5-1. 遺伝性乳がんになるリスクを下げる?リスク低減乳房切除術(RRM)とは

アメリカ女優アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査で乳がんリスクが高いと知り、予防的に両乳房を切除したことが話題になりました。HBOCは一般より発症リスクが高く、若年で発症しやすく、両側乳房に出やすい傾向があります。

このため予防手術として「リスク低減乳房切除術(RRM)」が行われることがあります。RRMは発症前に乳腺を切除し乳がんリスクを約90%減らしますが、完全予防ではなく生存期間を延ばす効果も未証明です。

また「リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)」では卵管・卵巣を切除し卵巣がんリスクを79%、乳がんリスクを51%低減し、全死亡リスクも約60%下げることが示されています。出産希望がなければ検討価値があります。

予防目的のRRM・RRSOは自費診療ですが、乳がん発症後に未発症側で行う場合は保険適用となります。

5-2. 乳がんの遺伝カウンセリングとは

遺伝カウンセリングは、遺伝性のがんについて医師や認定遺伝カウンセラーに相談できる窓口です。家族歴や状況に応じて、がん発症リスクの有無、適切な検診・遺伝子検査を受けるべきかを一緒に考えることができます。日本では予約制・個室で行われることが多く、プライバシーが守られた環境で安心して相談できます。

海外研究では、遺伝カウンセリングによりリスク理解が正確になり、不必要な検査希望が減り、不安軽減にもつながることが示されています。乳がんの有無に関わらず利用可能で、不安を抱える前に相談することがおすすめです。

実施施設は「全国遺伝子医療部門連絡会議」の検索システム(http://www.idenshiiryoubumon.org/search/)で確認できます。

5-3.遺伝性乳がんは年一回のMRI検査を推奨!2年に一回の自治体乳がん検診では足りない?

日本では40歳以上の女性に2年に1度の定期乳がん検診(視触診・マンモグラフィ・乳腺エコー)が推奨され、多くは自治体負担で無料です。

しかしHBOCの方は25歳以降からリスクが上昇するため、自治体検診だけでは不十分とされます。日本乳癌学会のガイドラインでは、HBOC該当者は25歳以降から毎年の検診を推奨。さらに、マンモやエコーより精度の高いMRI検診が望ましいとされています。ただしMRIは自治体検診では実施されず、人間ドックや無痛MRI乳がん検診を利用する必要があります。

【参考文献】 患者さんのための乳がん診療ガイドライン https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g1/q4/

6. 乳がんの遺伝子を持つ場合には、無痛MRI乳がん検診がおすすめ

無痛乳がん検診②

6-1.無痛MRI乳がん検診はMRI検査の最新技術

遺伝性乳がんの予防には、**無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)**の利用が有効です。これは強力な磁石と電磁波を用いたMRI検査の一種で、乳房を多方向から撮影します。特にDWIBSという技術を応用することで、簡便かつ高い精度で病変を検出できます。 無痛MRI乳がん検診は従来の検査より検出率が高く、欧米ではHBOCなどハイリスク群のスクリーニングとして導入されています。日本でも実施施設が増加しており、今後新しい検診のスタンダードとして期待されています。

6-2.検査中の痛みがなく、安心

従来、痛みを避けたい方の乳がん検診は乳腺エコーが主流でしたが、近年は**無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)**が新たな選択肢として注目されています。マンモグラフィのように乳房を圧迫しないため痛みがなく、手術歴やシリコン挿入があっても安心して受けられます。

検査は腹ばいで乳房を専用の穴に入れて行い、磁気で乳房全体を撮影。衣服が邪魔にならないため検査着のまま受けられ、乳房を見せずにプライバシーを保てる点も特徴です。

マンモ・MRI比較

6-3.被ばくがなく、若年者でも受けやすい

無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)は磁気を用いるため放射線被ばくがなく、繰り返し受けても体への悪影響はありません。HBOCの方のように若年から検査が必要な場合にも適しています。ただし妊娠中は胎児への影響を否定できないため避けた方が安心です。

6-4.乳腺濃度の影響を受けづらい

この検査は乳腺濃度に左右されず、高濃度乳腺(デンスブレスト)の方にも有効です。マンモグラフィでは乳腺が多いとがんを見落としやすいのに対し、無痛MRIでは乳腺や脂肪が白、がんが黒く映るためコントラストが明瞭です。若年でもリスクが高いHBOCの方に特に適した検査といえます。

6-5.検出範囲が広く、検出精度が高い

マンモグラフィや乳腺エコーでは胸壁や脇の下が死角になりやすいのに対し、無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)は広範囲を高精度に撮影できます。診断精度は従来検査の3〜4倍と報告され、2023年のデータでは約17,000人中、1,000人に対し約20人の割合でがんを検出。海外研究でもBRCA1変異保持者の病変検出率がMRIで93.6%、マンモでは51.1%と差が示されています。

6-6.費用が高い

最新技術のため費用は高額で、自治体検診の対象にも含まれず自費での受診が基本です。ただしHBOCなど高リスク群では早期発見のメリットが大きく、結果的に治療費を抑える可能性もあります。

7.まとめ

乳がんは遺伝子変異により発症リスクが高まることがあり、その場合は無痛MRI乳がん検診が有効な選択肢となります。予防効果の高いリスク低減乳房切除術(RRM)もありますが、身体的だけでなく精神的負担も大きいため、専門家による遺伝カウンセリングを受けることが望ましいでしょう。

大切なのは「極度に恐れること」ではなく、自分のリスクを正しく理解し、RRMの実施、検診頻度の調整、MRI検査の活用などを無理のない範囲で選択することです。

今回の記事を参考に、自身が遺伝性乳がんとどのように付き合っていくのかを考えてみてはいかがでしょうか。

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